京都地方裁判所 昭和63年(わ)1252号 判決 1989年7月05日
本店所在地
京都市左京区大原来迎院町四〇一番地
株式会社寺子屋
(右代表者代表取締役 海藏講平)
本籍
宮崎県小林市大字真方五五一五番地の一
住居
京都市右京区嵯峨鳥居本小坂町一二番地の一
会社役員
海藏講平
昭和二六年九月九日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官松下繁生出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人株式会社寺子屋を罰金一〇〇〇万円に、被告人海藏講平を懲役一〇月にそれぞれ処する。
被告人海藏講平に対し、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人株式会社寺子屋(以下「被告会社」という)は、京都市左京区大原来迎院町四〇一番地に本店を置き、観光民芸品の製作・販売等を営む株式会社であり、被告人海藏講平は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人海藏講平は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、
第一 昭和五九年六月一日から同六〇年五月三一日までの事業年度における実際の所得金額が三九二三万八四九四円で、これに対する法人税額が一五九二万一八〇〇円であるのに、売上の一部を除外するなどの行為により所得の一部を秘匿した上、同六〇年七月三一日、同市左京区聖護院円頓美町一八所在の所轄左京税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が四二五万七四五八円で、これに対する法人税額が一二三万五四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右事業年度の法人税一四六八万六四〇〇円を免れ、
第二 同六〇年六月一日から同六一年五月三一日までの事業年度における実際の所得金額が四三三六万六九四七円で、これに対する法人税額が一七五八万八四〇〇円であるのに、前同様の行為により所得の一部を秘匿した上、同六一年七月三一日、前記左京税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が七八三万〇七三三円で、これに対する法人税額が二二二万二三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右事業年度の法人税一五三六万六一〇〇円を免れ、
第三 同六一年六月一日から同六二年五月三一日までの事業年度における実際の所得金額が三七九六万三〇五六円で、これに対する法人税額が一四九四万一六〇〇円であるのに、前同様の行為により所得の一部を秘匿した上、同六二年七月三一日、前記左京税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一一一〇万一二六四円で、これに対する法人税額が三六五万九六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右事業年度の法人税一一二八万二〇〇〇円を免れ、
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全部について
一 被告人海藏講平の当公判廷における供述
一 被告人海藏講平の検察官に対する供述調書
一 被告人海藏講平の大蔵事務官に対する質問てん末書(一五通)
一 児玉敦の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書(五通)
一 元木松吉の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書(一〇通)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料(損益)と題する書面
一 登記簿謄本
判示第一、第二の事実について
一 押収してある売上帳一綴(平成元年押第二八号の二)、黒表紙のノート(同号の四)、「元木さん」と表記のノート(同号の五)
判示第一の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書と題する書面(検一号)、法人税確定申告書(謄本、検五号)
判示第二、第三の事実について
一 押収してある売上帳二冊(平成元年押第二八号の一)
判示第二の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書と題する書面(検二号)、法人税確定申告書(謄本、検六号)
判示第三の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書と題する書面(検三号)、法人税確定申告書(謄本、検七号)
一 押収してある売上帳一綴(平成元年押第二八号の三)
(法令の適用)
被告人らの判示各所為は、いずれも各事業年度ごとに法人税法一五九条一項(被告会社については、さらに同法一六四条一項)に該当するところ、被告人海藏講平については所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告会社については同法四八条二項により合算した金額の範囲内において罰金一〇〇〇万円に、被告人海藏講平については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役一〇月にそれぞれ処し、被告人海藏講平に対しては、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間、右刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は、観光民芸品の製作・販売業等を営む被告人海藏講平が、昭和五九年六月一日から同六二年五月三一日までの三事業年度にわたって、その経営する被告会社の所得合計九七三七万円余りを秘匿し、法人税合計四一三三万円余りをほ脱したという事案であるが、犯行態様は、被告人海藏講平が被告会社の専務や経理担当者に指示して直営店での現金売上げや、各種博覧会での売上金の一部を除外させた上、裏帳簿を作成させたりするなど計画的なものであり、事業拡大等のために裏資金を蓄積留保するという動機も格段酌量すべきものとは認め難く、これら事情を考慮すると被告人らの刑事責任は決して軽微なものとは言えない。
しかしながら、被告法人は、既に修正申告をして本税分のほか重加算税、延滞税を完納し、現在は専門の税理士に依頼して経理体制の整備に努めるなど反省の情も多分に認められること、本件については新聞等で二回にわたって報道され経営に影響が出るなど、被告人らは既に社会的な制裁を受けているとも考えられること、被告人海藏講平には、前科前歴は全くなく、被告会社についても同種事案による処罰歴のないことなど、被告人らに有利な情状も認められるので、これらの諸事情も併せ考慮して主文のとおり刑の量定をした次第である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 小野木等)